税理士法人への転職は売り手市場?税理士法人を選ぶときに注意すべきこと
2020年10月12日
税理士業界の有効求人倍率は2017年から2019年まで高い数値を維持しており、売り手市場と呼ばれています。
有効求人倍率を維持していられる理由は3つあり、新型コロナの影響が収まったとしても同様の理由から有効求人倍率は回復するだろうと予想されています。
そこで今回は、税理士法人への転職は本当に売り手市場なのか、選ぶときのポイントと併せて解説します。
ぜひ最後までご覧ください。
税理士法人への転職は売り手市場である
2020年は新型コロナウイルスの影響もあり、6月の段階で有効求人倍率が1.11 倍に減少していき、転職市場自体が売り手市場から買い手市場に変化しました。
会計業界にも影響は及び、税理士や税理士補助のパート募集の有効求人倍率が1.00倍を下回りました。
業界全体を見渡しても募集が少なくなりつつある現状ですが、一方で税理士法人への転職は有利という見方は変わりません。
なぜなら、有効求人倍率が高い数値を維持していたのは3つの理由があったからで、新型コロナが収束した後も理由は変わらないと予想されています。
どのような理由なのか、順番に解説します。
税理士試験を目指す人は年々減っている
税理士試験は年に1度行われ、5科目合格すれば資格を与えられます。
受験資格が設定されており、合格に必要な勉強時間は一般的に3000時間以上、合格率は12%~17%と高難易度な国家資格です。
そのためか、年々税理士試験を目指す人は減っており、同時に合格者数も減少傾向にあります。
平成27年度 | 平成28年度 | 平成29年度 | 平成30年度 | 令和元年度 | |
受験者数 | 38,175人 | 35,589人 | 32,974人 | 30,850人 | 29,779人 |
合格者数 | 6,902人 | 5,538人 | 6,634人 | 4,716人 | 5,388人 |
合格率 | 18.0% | 15.5% | 20.1% | 15.3% | 18.1% |
平成30年度は合格者が初めて5,000人を下回り、大きな話題となりました。
受験者数・合格者数の減少の背景には、2008年のリーマン・ショック以降、企業の倒産が多くなり税理士業界の収益が下がるのではないかという予想が立ちました。
また、野村総合研究所とオックスフォード大学の協同研究レポートで、将来AIやロボットによって代替される100の職業に会計監査係員(経理事務員など)があったことから、税理士はAIに取って代わられるのではないかという憶測も流れています。
以上の理由もあってか、年々税理士になる人数は少なくなっており、人手不足といわれています。
法人数が増えているので、市場が大きくなっている
日本税理士会連合会の発表によると、税理士法人は2020年8月末時点で4,260法人です。
2017年が3,561法人だったのと比べると、3年間で約700法人増えた計算となります。
どうして法人数が増えているのかというと、個人の事務所は支店を持つことができず商圏を広げることが難しいからです。
法人化することで支店を作れるようになり、多種多様な業種への対応が可能となります。
また、税理士業務が複雑化・高度化していくことを受け、若手税理士が複数人で経営するために法人化を選択するケースや、税理士の高齢化に伴い法人化することで若手税理士が所属しやすい環境を作るなどの理由も考えられます。
法人数が増えるということは税理士の受け皿が増えるということにつながり、結果として税理士の市場は大きくなっています。
独立・開業で退職する人が多く、企業は常に採用を重視している
税理士になったからといって、税理士事務所に就職や自分で事務所を開設するばかりが選択肢ではありません。
実は一般企業も税理士の採用を重視しています。
税法は毎年のように改正されており、最近ではマイナンバー制度や相続税法の大きな改正もあり、一般企業での税理士の需要が高まっています。
また、税理士にとっても税理士事務所に所属するよりも様々な業務に触れられる可能性があるため、相応のメリットがあります。
税務のプロフェッショナルが会社内にいてほしいと望む企業は多く、税理士事務所以外での就職口もあるということは転職しやすい理由となります。
税理士法人へ転職するならどうするのがおすすめ?
税理士の資格を取り税理士法人へ転職するなら、2つの方法があります。
- 税理士専用の転職エージェントを使用する
- 自分で合う企業を見つけて直接応募する
どちらもメリット・デメリットはありますが、おすすめなのは税理士専用の転職エージェントを使用することです。
それぞれの方法について解説します。
税理士専用の転職エージェントを使用する
転職エージェントとは、人材紹介サービスの1つで、求職者の希望に沿えるように転職をサポートします。
転職サイトと違い、求職者にサポートアドバイザーが付き、面談・電話でヒアリングを行いつつ、勤務地や年収、福利厚生などの希望者の条件に合う求人をピックアップし、段階に応じたサポートを行います。
転職エージェントは専門ごとに分かれており、その職場の内部情報や業界の動向に精通しているため、転職を希望する方にとっては頼れる相棒となります。
非公開求人も多数揃えている場合もあるため、自分では見つけられなかった求人を紹介してもらえるケースもあります。
転職活動が初めてで、税理士業界にパイプがない方は転職エージェントに相談してみましょう。
自分で合う企業を見つけて直接応募する
もう1つの方法は、自分で合う企業や税理士法人を見つけて直接応募する方法です。
一般的に転職サイトや各企業、税理士法人の出している求人をチェックして、自分で面接のアポなどを取ります。
最初から入りたい企業や税理士法人があるなら、この方法もおすすめです。
ただし、自分で求人をチェックするのは手間が掛かり、別に仕事をしながらアポイントメントを取るのは大変です。
転職の成功率を上げるなら、転職エージェントも検討してみましょう。
税理士法人に転職するなら着目すべきポイント
税理士と一口にいっても、働き方も多種多様です。
転職する前に自分はどんな風に仕事をしたいのか、独立を目指しているのか、どんな職場を好むのかといったポイントを整理するべきです。
自分がどんな仕事をしたいか
まず、自分が税理士の資格を持ってどんな仕事をしたいのかイメージしてみましょう。
税理士の業務は第三者の求めに応じて「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」を行います。
この場合、「税務相談」はフロントオフィス、「税務代理」と「税務書類の作成」はバックオフィスに分類できます。
フロントオフィスである「税務相談」を一言で表すと、税金に関する相談を受け付けることです。
最近ではインターネット上で受け付ける場合もありますが、基本的にはお客様と対面で業務を行います。
お客様は税務の素人なため相談内容がまとまらず、何をしたいのかも理解していないかもしれません。
そのため、「税務相談」に必要なのはコミュニケーション能力で、お客様の要望を上手にくみ取る力が重視されます。
バックオフィスである「税務代理」や「税務書類の作成」は基本的に書類仕事になります。
提出したい書類を求められているフォーマットで作成し、税務署とやり取りを重ねるのも業務内容になります。
どちらかといえば地味で、忍耐と丁寧さが要求されます。
税理士の業務は多岐にわたっていますが、大別するとフロントオフィスとバックオフィスに分類できます。
転職する際は、自分はどちらの業務がやってみたいのか、募集内容ではどちらの業務を求められているのか確認しましょう。
いずれ独立を目指しているか
税理士の資格があれば独立して自分の事務所を立ち上げることができます。
もし、独立を目指しているなら、すでにある事務所や企業ではなく、ベンチャー企業に就職するのも検討してみましょう。
なぜなら、ベンチャー企業はゼロからスタートしているため、自分が独立したときに必要となる知識や経験を学べるチャンスがあります。
また、大手はタスクが細分化されているため、多種多様な業務に触れられるベンチャーの方が経験を積める場合もあります。
どんな職場を好むか
働き方や職場に求める条件は人それぞれです。
体調に不安がある、家族に介護が必要、幼い子どもを育てているなどの事情があるなら、福利厚生が充実しており、残業が少ない職場が向いています。
このように自分が働くならどんな職場がいいのか言語化すると、転職先を決める大きな指針となります。
おすすめの転職先紹介
この項目では、希望にあった税理士の転職先としておすすめなのを紹介します。
ホワイトな環境で働きたい人は?
税理士としてのキャリアを重視しつつも、体調を崩したくない、あるいは長時間の労働が難しいといった方は大手企業の経理や企業内税理士がおすすめです。
大手企業は従業員の数も多いため、タスクの細分化が進み、1人当たりの仕事量と責任が少なくなります。
一方で中小企業は1人の負担が大きくなり、仕事を休みづらい、しわ寄せが来るなどの問題点があります。
また、大手税理士事務所や税理士法人の税理士事務や補助は年収も高く、福利厚生が整っていることが魅力です。
独立を目指したい人は?
将来的に独立を目指しているなら個人税理士事務所やベンチャー、スタートアップの事務所に転職するのがおすすめです。
大手税理士事務所だと業務が分散化されており、似たような業務しか経験できないという可能性があります。
また、大手企業は税理士業務を外部に委託している場合もあり、税理士としての経験を積めないこともあります。
個人の税理士事務所やベンチャー企業は多種多様な案件に触れられるチャンスがあり、税理士としてのスキルを磨くのに役立ちます。
大型案件に携わりたい人は?
税理士としてのキャリアを積みたい、あるいは大型案件に将来的に関わりたい方はBIG4への転職を検討してみましょう。
税理士のBIG4とは次の4つになります。
- PwC税理士法人
- デロイト トーマツ税理士法人
- KPMG税理士法人
- EY税理士法人
それぞれ世界展開している会計事務所のメンバーファームで、日本での税務サービスを行う窓口にあたります。
BIG4が扱う案件は法人向け税務サービスで、「大企業向け税務」「特殊税務」「国際税務」といった普通の税理士事務所では扱わない案件ばかりです。
他の転職先に比べて高度な案件となり、求められるスキルも高くなりますが、普通の税理士が扱わないような案件に興味がある方は挑戦してみましょう。
まとめ
新型コロナの影響で需要が小さくなった税理士業界ですが、2019年までの動向を分析するなら売り手市場でした。
新型コロナの影響が収まれば、需要が回復し売り手市場に切り替わると見越して、税理士の資格を取って転職するのも1つの選択肢になります。