事業の拡大により従業員を雇うか検討している個人事業主の方の中には、雇用によって社会保険や税金など複雑な手続きが増えてしまう悩みがある方もいるかもしれません。
そのためここでは従業員を雇う際に必要な手続きについて網羅的にご説明いたします。
また、従業員を雇えるほど事業が拡大しているのならば法人を設立するとメリットが多い可能性があるため、個人事業主と法人の節税についてもお伝えいたします。
従業員を雇う際、最初に必要な3つの手続き
【①税務署】従業員への給与支払いに関する手続き
提出書類は「給与支払事務所等の開設届出書」です。
給与等を支払う事務所などを開設、移転又は廃止した場合に届け出ます。
提出場所は所轄の税務署です。
従業員を雇用してから1ヶ月以内に税務署へ持参または郵送にて提出する必要があります。
また、本来なら徴収した日の翌月10日を納期限として毎月給与から徴収した所得税を納付する必要があります。
ただし、従業員が10人未満であれば、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出することで1月と7月の年2回にまとめて納付することができる特例を受けられます。
※参考:国税庁「給与支払事務所等の開設届出書、税務署所在地」
※参考:国税庁「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」
【②労働基準監督署】労災保険の手続き
提出書類は「労働保険関係成立届」「労働保険概算保険料申告書」の2種類です。
従業員を雇用すると短期のアルバイトであっても「労災保険」の手続きが必要となるためです。
「労働保険関係成立届」は雇用してから10日以内。
「労働保険概算保険料申告書」は雇用してから50日以内が提出期限です。
提出場所は労働基準監督署です。
提出に必要な書類は労働基準監督署に取りに行く必要がありますが、印鑑と保険料分の現金、事業所の所在地がわかるものを持参しその場で加入が可能です。
【③ハローワーク】雇用保険の手続き
提出書類は「雇用保険適用事業所設置届」「雇用保険被保険者資格取得届」の2種類です。
雇用保険の手続きが必要となるためです。
提出場所はハローワーク(公共職業安定所)です。
いずれも雇用してから10日以内に提出が必要です。
必要書類はダウンロードできます。
なお、農林水産業、建設事業者の場合は手続きが異なりますので所轄の労働基準監督署またはハローワークへお尋ねください。
※参考:ハローワーク「帳票一覧」
従業員を雇う際、定期的に必要な手続き
社会保険
従業員を雇うことにより社会保険と税金の手続きが定期的に必要となります。
先ずは社会保険を説明いたします。
社会保険とは事業所が加入する健康保険や厚生年金保険のことです。
従業員を雇用した場合に行う社会保険の手続き
個人事業主が従業員を雇った場合の社会保険
常時5人以上の従業員を雇用している場合(クリーニング業、飲食店などを除く)は国民健康保険や国民年金ではなく、協会けんぽなどの健康保険や厚生年金保険(社会保険)に加入する必要があります。
事実発生から5日以内に所轄の年金事務所(事務センター)に次の書類を提出する必要があります。
社会保険の手続きに必要な書類
1) 健康保険・厚生年金保険 新規適用届(社会保険に初めて加入する時のみ)
事業所が社会保険に加入するための書類です。
事業主の世帯全員の住民票を添付して提出します。
2) 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
従業員を雇用する都度、提出が必要な書類です。
社会保険の手続きの流れ
健康保険や厚生年金保険の毎月の保険料は個人事業主と従業員で折半して負担します。
毎月の給料から社会保険料の金額を天引きし、翌月末日までに年金事務所等に納付します。
通常は納付書が送付されてきますが、初めて従業員を雇用したケースなどでは納付期限までに納付書が送付されてこない場合もあります。
この場合は所轄の年金事務所等に問い合わせて下さい。
個人事業主は会社設立によって節税が可能?
個人事業主は会社(法人)を設立した方がより節税効果が高い場合があります。
以下に会社設立の節税メリットをご説明します。
個人と法人の2つの所得を使い分けられる
法人を設立することで個人と合わせて2つの所得を持つことができます。
法人の方が所得に対する税率が低い場合が多く、例えば個人の場合所得が900万円より上だと所得税率は33%以上になりますが、法人であれば800万円以下が15%、800万円以上でも23.9%となります。
法人と個人の2つの所得を使い分けることで、法人の方に資金を貯めておくなど節税手段が広がります。
家族に所得を分散することで税率を下げることができる
個人事業主でも家族に所得を分散することで税率を下げることはできます。
白色申告の事業専従者控除ならば配偶者86万円その他の親族は50万円、青色申告の青色申告専従者給与ならば妥当性のある報酬を設定することができます。
しかし、半年以上事業に専従することや事前届け出が必要という制約もあります。
一方法人の場合は金額の制約や従事期間の制約もなく家族に所得を分散することが可能です。
また、法人の場合は家族従業員に対する給与の額が年間103万円以下であれば配偶者控除や扶養控除の対象とすることもできます。
法人化することで2年間消費税を免除される
法人化をすると、資本金1,000万円未満という要件を満たせば1期目の消費税が免除になります。
また、特定期間(事業年度の前事業年度開始の日以後6カ月の期間)の売上額が1,000万円以下の場合、または給与が1,000万円以下の場合に2期目も免税の対象となります。
赤字損失の繰り越しが個人事業主の3倍に!
個人事業主は赤字損失の繰り越しが3年間ですが、法人の場合、赤字(繰越欠損金)は9年間繰り越しすることができます。
個人事業主に比べて経費の幅が広がる
法人は個人事業主が計上できる経費は概ね全て計上できます。
さらに幅広い出費も経費として計上することができるため節税効果が高まります。
例えば自分や家族従業員への給料と退職金も経費になります。
また自分の生命保険料も計上できます。
さらに、会社名義で物件を借りるまたは購入し、それを経営者に貸し出すことで家賃の大部分も経費とすることが可能です。
まとめ
事業の拡大によって従業員を雇うと社会保険や税金の納付など手続きは増えてしまいます。
しかし、初めて雇用した場合などは手続きが多いものの、一度届け出を提出し、また特例も申請しておけば実際の納付作業はそこまで多くありません。
更に、従業員を雇えるほど売上が拡大してきたならば、節税メリットを考えても個人事業主のまま雇用するより法人設立をご検討する機会かもしれません。